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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)9757号 判決 1997年8月29日

原告

木村隆夫

被告

小牧洋和

ほか一名

主文

被告らは、原告に対し、各自、金一九一三万〇六四八円及び内金一七四三万〇六四八円に対する平成六年八月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、これを五分し、その三を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自、金五〇〇九万八七六八円及び内金四四〇九万八七六八円に対する平成六年八月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交差点で左折普通乗用自動車と衝突し、負傷した原動機付自転車の運転手が、普通乗用自動車の運転手に対して民法七〇九条により、普通乗用自動車の所有者に対して自動車損害賠償保障法三条により、それぞれ損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含み、( )内に認定に供した証拠を摘示する。)

1  本件事故の発生

発生日時 平成六年八月二九日午前七時四五分ごろ

発生場所 大阪府伊丹市車塚一丁目九三番地交差点

被害車両 原告運転の原動機付自転車(登録番号豊中市な四一七五、以下「原告車」という。)(甲第一の二)

加害車両 被告小牧洋和(以下「被告小牧」という。)運転の普通乗用自動車(登録番号神戸三三む四九九四、以下「被告車」という。)

事故の態様 被告車が交差点を左折進行する際、その左前側面部が直進していた原告車と衝突し、原告を路上に転倒させた(甲第一の一)。

2  責任原因

(一) 被告小牧は、交差点を左折進行するに当たっては、その三〇メートル手前で左折の合図をし、あらかじめできる限り道路の左側によって徐行し、左側後方から進行してくる車両の有無及びその安全を確認して左折進行すべき注意義務があるところ、左側後方の安全を確認せず、漫然と被告車を道路の左側に幅寄せして原告車に接触させ、更に、交差点を左折進行して本件事故を発生させた過失があるから、民法七〇九条により、原告の損害を賠償する義務がある。

(二) 被告小牧工業有限会社(以下「被告会社」という。)は、被告車を所有していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により、原告の損害を賠償する義務がある。

3  原告の傷害

原告は本件事故により、右大腿骨頸部骨折の傷害を負った。

4  治療経過

(一) 伊丹恒生病院 平成六年八月二九日から平成七年八月一日まで入院(三三八日間)

(二) 伊丹恒生病院 平成七年八月二日から同月三一日まで通院(実通院日数二三日間)

(三) 小坂鍼灸整骨院 平成七年八月二日から同月三一日まで通院(実通院日数二〇日間)

5  損害のてん補

原告は、共栄火災海上保険相互会社から、治療費三三〇万一二四八円及び内払金一〇九七万六三四六円の合計金一四二七万七五九四円の支払いを受けた。

二  争点

1  原告の後遺障害

(原告の主張)

原告は、本件事故により、平成七年八月三一日、右下肢短縮、右膝関節及び右股関節の機能障害を残して、症状固定した。

なお、症状固定時、原告は通院治療中であったが、共栄火災海上保険相互会社の担当者から、内払金の支払は限度に達しており、早く症状固定させたほうが、後遺障害の認定に有利であるとの説明を受け、症状固定に同意した。

(被告らの反論)

後遺障害のうち右股関節の機能障害の主張は否認する。

症状固定日は平成七年八月三一日である。

自動車保険料率算定会が、原告に対し、調査事務所の指定医である大阪厚生年金病院での再検査を受けるよう依頼し、その結果作成された後遺障害意見書によれば、股関節の患側可動域は合計一二〇度であったのに、原告が自発的に受診した尼崎病院の診断書では、患側可動域が九五度に激減しているのであって、このことは原告の恣意の介在を想像せざるを得ない。

2  損害

(一) 治療費 三三六万六二四八円

(二) 看護料 二一万五〇〇〇円

(算式) 5,000×43

(三) 入院雑費 四三万九四〇〇円

(算式) 1,300×338

(四) 交通費 二万八七〇〇円

(算式) 900×23+400×20

(五) 症状固定後の治療費、交通費

(1) 治療費 五八万三九五八円

伊丹恒生病院 平成七年九月一日から平成八年六月二二日まで(一四九日間) 五万五四二八円

小坂鍼灸整骨院 平成七年九月一日から平成八年六月二一日まで(一九五日間) 五二万二〇〇〇円

その他 六五三〇円

(2) 交通費 一八万三四〇〇円

伊丹恒生病院 一一万三四〇〇円

小坂鍼灸整骨院 七万〇〇〇〇円

(六) 休業損害 八八八万八七二四円

原告は、平成六年五月末日に株式会社オークを退職した後、同年六月一日から同年七月二五日まで(五二日間)をミタ産業株式会社で、同月二六日から事故当日である平成六年八月二九日まで(二三日間)を株式会社アクティスで、また、株式会社アクティスに在職中、同社の休日を利用して九日間をハラダ工業で建築金物工として働き、更に、平成五年一〇月八日から夜間(午前零時から午前七時)もフットワークエクスプレス株式会社において貨物の仕分け作業のアルバイトに従事していた。原告の右各就労先での日額給与の平均額に休業期間(三六八日のうち一年分を請求する)を乗じると右のとおりとなる。

(算式)

(1) 平成六年六月一日から同年八月二八日までのミタ産業(株)、(株)アクティス、ハラダ工業における休業損害

給与総額 1,040,000円+291,440円+180,000円=1,511,440円

平均日給 1,551,440円÷(52日+23日+9日)≒17,993

一か月の平均就労日数 (52日+23日+9日)÷3=28日

休業損害額 17,993円×28日×12=6,045,648円

(2) 平成六年六月一日から同年八月二八日までのフットワークエクスプレス(株)における休業損害

給与総額 653,125円+37,080円=690,205円

平均日給 609,205円÷67=10,301円

一か月の平均就労日数 69日÷3=23日

休業損害額 10,301円×23日×12=2,843,076円

(3) 休業損害額合計 6,045,648円+2,843,076円=8,888,724円

(七) 後遺障害による逸失利益 三五一五万四〇〇〇円

(原告の主張)

原告の右膝関節の機能障害及び右股関節の機能障害はいずれも、自賠法施行令二条別表後遺障害等級第一二級七号(以下、等級のみを示す。)に、右下肢短縮は第一三級九号に該当し、併合一一級となるが、建築金物業という原告の職種の特殊性(膝や腰を曲げる不安定な姿勢での作業が多い)を考慮すると、原告は、少なくとも、その労働能力を二七パーセント喪失したというべきである。

原告は症状固定時満四三歳であり、建築金物業者として将来に旦り、株式会社オークに在職していた平成五年度の年収額八四〇万円以上を得ることができたのであるから、右金額を基礎として六七歳までの二四年間の逸失利益の現価を新ホフマン係数を用いて計算すると右の金額となる。

(算式) 8,400,000×0.27×15.5

(被告らの反論)

右股関節の機能障害は否認するし、労働能力二七パーセント喪失も原告独自の見解である。

一センチメートルの下肢短縮は労働能力に何らの影響も与えない。

本件では、右膝関節の機能障害について、せいぜい一〇年間、喪失率一四パーセントの積算をすべきである。

(八) 慰謝料 九六〇万〇〇〇〇円

入通院慰謝料 三五〇万〇〇〇〇円

後遺障害慰謝料 六一〇万〇〇〇〇円

(九) 弁護士費用 六〇〇万〇〇〇〇円

3  過失相殺

(被告らの主張)

原告は、被告車が進路前方で左折の合図を行い、左側に寄せると共に速度を減じつつあった状況を全く見落し、左折車両との衝突回避という基本的注意義務を全く失念ないし看過して、被告車と道路左端とのわずかの隙間を漫然直進運転を行った結果本件事故に至ったものであり、原告の過失は重大であるという他ない。

(原告の主張)

被告小牧が方向指示器による合図をしていたか極めて疑わしく、また、車道の左側には約一五センチメートルの段差のある歩道があったため、原告が被告車の左折の合図を認識できたとしても接触及び衝突を回避することはできなかった。

第三争点に対する判断

一  原告の後遺障害

1  前記争いのない事実及び証拠(甲第一の3、第二から第三の二、第九、第一〇、第一二、第一八、乙第一から第三まで、原告)によれば、

原告は、本件事故により、右大腿骨頸部骨折の傷害を負い、平成六年八月二九日から平成七年八月一日まで、大阪府伊丹市所在の伊丹恒生病院に入院し、治療を受けたこと、

同年八月二日から、同病院に通院し、右股関節の運動制限と同部の疼痛、右膝伸展障害(拘縮)に対し、膝の屈伸運動(自動・他動)と温熱療法等の治療を受けたこと、

また、同日から、大阪府豊中市所在の小坂鍼灸整骨院に、平成八年六月二一日まで一九五回通い、施術を受けたこと、

平成七年八月三一日の診断に基づき、伊丹恒生病院の野田真也医師(以下「野田医師」という。)は、平成七年九月八日付け自賠責保険後遺障害診断書を作成し、症状固定日「(平成)七年八月三一日」、傷病名「右大腿骨頸部骨折」、後遺障害の内容「(自覚症状)右下腿短縮による跛行、右股関節痛、右膝屈曲障害による座位不能、このため従来の仕事(立て膝を要する)ができない。走れない。歩行装具を常に必要とする。重い物を持てない。長時間立ってられない」、各部位の後遺障害の内容、醜状障害「右下腿短縮による立位変形あり、右へと体が傾く。」、右大腿骨頸部の変形治癒による下肢短縮(右下肢長八九センチメートル、左下肢長九四・一センチメートル)、「右大腿骨頸部(右股関節)変形癒合」、関節機能障害「膝関節、屈曲(自動・他動共)右九〇度、左一七〇度」旨診断したこと、

右の後遺障害診断書作成の前に、原告は、保険会社の担当者から、「そろそろ症状固定の時期が来ている。今の状態で固定した方が得なので固定して欲しい」旨告げられたこと、右診断書作成の際、原告は、膝関節の痛みが強かったので、股関節の痛みについて訴えなかったこと、

平成八年三月一二日の診断に基づき、大阪市福島区所在の大阪厚生年金病院整形外科の山本利美雄医師(以下「山本医師」という。)は、同年四月五日付けで自賠責保険後遺障害意見書を作成し、傷病名「右大腿骨転子下骨折後右膝拘縮」、主訴及び自覚症状「右膝関節拘縮」、検査成績及び他覚症状「股関節、屈曲、右一〇〇度、左一三〇度、伸展、右一〇度、左一〇度、外転、右二〇度、左三〇度、内転、右二〇度、左三〇度、膝、右〇~一〇〇度、脚長、右八五センチメートル、左八六センチメートル、大腿径、四一センチメートル、左四三センチメートル、下腿径、左右共三四センチメートル」、日常生活及び就労能力に支障を来す程度についての所見「支障なし」、予後についての所見「良好」、障害の程度及び内容についての所見「股関節の可動域低下は骨折後の拘縮による。膝関節のそれはエンダー釘の影響である。抜釘すると改善する可能性ある。」旨診断したこと、

同年四月二日の診断に基づき、兵庫県立尼崎病院の中田孝医師(以下「中田医師」という。)は、同日付け自賠責保険後遺障害診断書を作成し、症状固定日「平成八年四月二日」、傷病名「右大腿骨骨折」、後遺障害の内容「(自覚症状)右股関節痛、自発痛、歩行時痛を伴う、跛行を認め、常時一本杖歩行、右下肢短縮一センチメートル、靴下着脱困難、右股関節、右膝関節機能障害、時に腰痛あり」、各部位の後遺障害の内容、精神・神経の障害、他覚症状および検査結果「大腿周囲径、右三七・〇、左三九・五、下腿周囲径、右三四・〇、左三五・〇、右下肢短縮、右膝機能障害については本骨折との因果関係を認む。」、「右大腿骨骨折短縮治癒による下肢短縮(右下肢長八四・五センチメートル、左下肢長八五・五センチメートル」、関節機能障害「股関節、屈曲(自動)右九〇度、左一三〇度、(他動)右九〇度、左一三五度、伸展(自動)右五度、左一〇度、(他動)右五度、左二〇度、外転(自動)右一五度、左四〇度、(他動)右二〇度、左四五度、内転(自動)右一〇度、左二〇度、(他動)右二〇度、左二五度、膝関節、屈曲(自動)右九〇度、左一五〇度、(他動)右一〇〇度、左一五〇度、伸展(自動・他動共)右〇度、左〇度」、障害内容の憎悪・緩解の見通しなど「右膝屈曲に関しては麻酔下徒手矯正等で軽減する見込みあり、将来、大腿骨頭変形の発症の可能性あり、再手術の可能性あり」旨診断したこと、

同年五月三一日、自動車保険料率算定会は、原告の後遺障害につき、右下肢の短縮一センチメートルが認められ(一三級九号)、右膝関節の機能障害が認められ(一二級七号)、右により併合一一級とし、右股関節の運動機能低下については、伊丹恒生病院での医証上当該部の所見等なく、平成八年四月二日診断の兵庫県立尼崎病院の医証上も当該部の運動機能低下に関する所見は認められず、提出画像上も運動機能低下を裏付ける所見も認められていないところから自賠責上の関節機能障害としての評価は困難であり、右股関節痛についても、治療経過、症状所見等より特段の異常所見も認められないところから非該当と判断したこと、

同年七月九日、野田医師は、原告につき診断書を作成し、傷病名「右大腿骨頸部骨折術後」、「平成七年八月二日より現在迄通院加療中である。右股関節の運動制限(他動、自動)と同部の疼痛、右膝伸展障害(拘縮)に対し、膝の屈伸運動(自動、他動)と温熱療法(ホットパック、マイクロ)を行っている」旨診断したこと、

同年一二月四日付けで、野田医師は、原告につき診断書を作成し、傷病名「右大腿骨骨折術後」、「本患者は受傷後、断続的に右股関節痛を訴えていたが、平成七年八月三一日の診断時点では同症状の訴えがなく、右膝の疼痛、運動制限に訴えが集中していたため、主たる症状としての膝の可動制限のみを記載したものである。本患者の手術は右膝内側を切開し、ここよりエンダー釘を股関節に向けて刺入しているため、術後、右膝の痛みと長期安静による可動制限が出現したものと考えられる。」旨診断したこと、

等の事実が認められる。

2  右の事実によれば、

(一) 原告は、本件事故により、右大腿骨頸部骨折の傷害を負い、平成七年八月三一日に、右下肢短縮、右股関節機能障害、右股関節痛、右膝関節機能障害等の後遺障害を残して症状固定したものと解され、このうち、原告主張にかかる右下肢短縮、右膝関節機能障害、右股関節機能障害について見ると、

(1) 右下肢短縮については、野田医師作成の平成七年九月八日付け自賠責保険後遺障害診断書以外、山本医師の同年四月五日付け自賠責保険後遺障害意見書、中田医師の同年四月二日付け自賠責保険後遺障害診断書、自動車保険料率算定会の認定のいずれも、脚長差約一センチメートルとしていることに鑑み、右の脚長差が正確なものと解され、第一三級九号に該当するものというべきである。

(2) 右膝関節の患側の運動可動領域は、屈伸が健側の運動可能領域の二分の一を超え四分の三以下に制限されているから、その内容及び程度を勘案すれば、第一二級七号に該当するものというべきである。

(3) 右股関節機能障害について、被告らは、これを否認し、前記1のとおり、野田医師作成の平成七年九月八日付け自賠責保険後遺障害診断害にはこれが触れられていないこと、中田医師の同年四月二日付け自賠責保険後遺障害診断書でも(関節可動域の数値以外)運動機能低下に関する所見は認められないこと、自動車保険料率算定会が、右の点及び画像上も裏付ける所見が認められないところから非該当と判断したこと等被告らの主張に沿う事実も認められるが、他方、野田医師自ら、原告につき、右自賠責保険後遺障害診断書作成のための診断時点では同症状の訴えがなく、右膝の疼痛、運動制限に訴えが集中していたため、主たる症状としての膝の可動制限のみを記載したものであるとしていること、右股関節機能障害について、山本医師は、股関節の可動域低下は骨折後の拘縮による旨診断していること、右股関節の患側の運動可動領域は、他動においても、屈伸及び内外転共に、健側の運動可能領域の二分の一を超え四分の三以下に制限されていること等が認められるのであって、これらの事実を併せ考えれば、原告の右股関節の機能に障害が残ったものということができ、これは第一二級七号に該当するものというべきである。

(二) そうとすると、原告の後遺障害は、右下肢短縮の第一三級九号、右膝関節機能障害の第一二級七号及び右股関節の機能障害第一二級七号に該当するので、これらを併合して第一一級と解すべきである。

二  損害

1  治療費 三三〇万一二四八円

証拠(弁論の全趣旨)によれば、原告は本件事故により負傷し、治療費として、少なくとも、被告らから治療費として支払いを受けた三三〇万一二四八円を要したことを認めることができる。

2  看護料 〇円

原告は看護料として、二一万五〇〇〇円を必要とした旨主張するけれども、看護が必要であったことについては、これを認めるに足りる証拠がない。

3  入院雑費 四三万九四〇〇円

前記争いのない事実等によれば、原告は、伊丹恒生病院に、平成六年八月二九日から平成七年八月一日まで、三三八日間入院したものであり、入院雑費としては一日あたり一三〇〇円を相当と認める。

(算式) 1,300×338

4  交通費 〇円

原告は交通費として、二万八七〇〇円を要した旨主張するけれども、交通費の必要性及びその額については、これを認めるに足りる証拠がない。

5  症状固定後の治療費、交通費 五万八一五五円

原告は、症状固定後も伊丹恒生病院や小坂鍼灸整骨院、その他に通院し、治療費及び交通費を支出した旨主張し、前記一の事実及び証拠(甲第一一、原告、弁論の全趣旨)によれば、原告は、受傷後、症状固定当時まで断続的に右股関節痛を訴えていたが、後遺障害診断書作成のための診断時には、右膝の疼痛、運動制限に訴えが集中し、症状固定後、日常生活をしてから股関節の障害を強く感じるようになったこと、野田医師は、原告につき、症状固定後も、右股関節の運動制限と疼痛等に対し、温熱療法(ホットパック、マイクロ)等の治療を行ったこと、中田医師が原告につき症状固定日であるとした平成八年四月二日までの伊丹恒生病院の治療費は五万八一五五円であること等の事実が認められ、右の事実によれば、原告は症状固定後も右の限度で治療を必要としたものということができる。

鍼灸治療については、伊丹恒生病院の医師が指示あるいは同意したことを認めるに足りる証拠がなく、医師の指示あるいは同意の下で実施されたものではないと考えられ、また、原告の症状が固定する前の時期における鍼灸治療の医学的な必要性、合理性についてはこれを認めるに足る証拠が無く、本件事故と鍼灸治療の治療費との間に相当因果関係を認めることはできないといわざるを得ない。

その他の通院治療費及び交通費については、その必要性を認めるに足りる証拠がない。

6  休業損害 七四五万五四九〇円

証拠(甲第五、第六、第七、原告)によれば、原告は、本件事故当時、フットワークエクスプレス株式会社において、本件事故前の平成六年六月一日から同年八月二八日までの間、午前零時から午前八時までの深夜、貨物の仕分け作業のアルバイトに従事し、六九万〇二〇五円を、ミタ産業株式会社において、平成六年六月一日から同年七月二五日までの五二日間、金物の取り付けの仕事に従事し、一〇四万円を、株式会社アクティスにおいて、同年七月二六日から事故当日である平成六年八月二九日までの二三日間、建築金物の仕事に従事し(勤務時間は午前八時三〇分から午後五時まで、午後六時ごろ帰宅)、二九万一四四〇円を、ハラダ工業において、株式会社アクティスに在職中、アルバイトとして、休日を利用して、適時、九日間建築金物の仕事に従事し、日給月給で一八万円をそれぞれ得ていたこと等の事実を認めることができるけれども、本件事故当時、原告は、既にミタ産業を辞めていたものであるし、ハラダ工業の勤務も他社に在職中、アルバイトとして、休日を利用して、適時、勤務していたものであって、本件事故による傷害によって原告が就労不能であった期間、その収入発生が継続し得たことを認めることはできないから、原告の休業損害の基礎収入額としては、フットワークエクスプレス株式会社及び株式会社アクティスの収入を基にするのが相当であり、これに本件事故当日である平成六年八月二九日から症状固定日である平成七年八月三一日までの三六八日の休業期間のうち、原告の請求にかかる一二か月分(三六五日として計算する。)を乗じると右のとおりとなる(円未満切り捨て。以下同じ。)

(算式) (690,205円÷89+291,440÷23)×365

7  後遺障害による逸失利益 一四〇五万三九四九円

原告は、その労働能力を二七パーセント喪失し、将来に旦り年収額八四〇万円以上を得ることができたのであるから、右金額を基礎として逸失利益を算定すべき旨主張し、証拠(甲第一三)中には、原告が平成五年に、株式会社オークから八四〇万円の給与を得ていたことを認めることができるものがある。

しかし、前記二の6の事実及び証拠(原告)によれば、原告は平成三年に友人と株式会社オークを設立し、原告が代表取締役に就任し、平成五年に前記のとおり八四〇万円を得ていたが、本件事故前の平成六年五月に同社を辞めたこと、平成八年一〇月から明治製菓及び松下電子工業に勤務を開始し、平成九年四月からは松下電子工業のみに勤務し、流れ作業で不適合品を抽出する作業に従事し、税込みで三一万ないし三二万円程度を得たこと等の事実を認めることができ、平成七年度賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計の四〇歳から四四歳の平均年収額が六四七万六六〇〇円であることは当裁判所に顕著な事実であり、右の事実によれば、原告が将来も八四〇万円の年収を得られたことは推認することはできないし、本件事故当時の原告の就労状態が将来も継続するとは解し難いから、原告の後遺障害による逸失利益の基礎収入額は右の平均年収額六四七万六六〇〇円をもって相当と解する。

また、前記一のとおり、原告(昭和二七年一月九日生まれ。症状固定時満四三歳)は、本件事故により、右下肢短縮(第一三級九号)、右膝関節の機能障害(第一二級七号)及び右股関節の機能障害(第一二級七号)等の後遺障害を負ったものと解され、右下肢短縮は脚長差約一センチメートル程度であること、右股関節の可動域制限は骨折後の拘縮により、膝関節の可動域制限はエンダー釘の影響で、抜釘すると改善する可能性ある旨診断されていること等の事実が認められ、右の事実によれば、原告は就労可能上限年齢六七歳まで二四年間就労可能であると解されるところ、その間、その労働能力を一四パーセント喪失したものと解する。

そうとすると、前記の平均年収額六四七万六六〇〇円を基礎にして、新ホフマン式計算法により右期間につき年五分の中間利息を控除して逸失利益の現価を算出すると、一四〇五万三九四九円となる。

(算式) 6,476,600×0.14×15.4997

8  慰謝料 六四〇万〇〇〇〇円

原告が本件事故で負った傷害の内容及び程度、後遺障害の内容及び程度等一切の事情を考慮すれば、慰謝料は入通院分三〇〇万円、後遺障害分三四〇万円をもって相当とするというべきである。

三  過失相殺

1  証拠(甲第一の一及び二、原告)によれば、

本件事故現場は、南北に伸びる道路(以下「南北道路」という。)と東西に伸びる道路(以下「東西道路」という。)とが交わる信号機による交通整理の行われている十字型交差点であって、南北道路は、歩車道の区別があり、幅員約七・一メートル(南行車線は三・五メートル)の片側一車線の二車線で、本件事故現場付近の道路は市街地に位置し、最高速度は時速四〇キロメートルに制限され、路面はアスファルト舗装され、平坦で、本件事故当時は乾燥していたこと、本件交差点付近における見通しは良いこと、本件事故当時は朝の通勤時間で通行量は多く、時々渋滞していたこと、

被告車(車幅一・七九メートル)は、本件事故当時、南北道路を時速約三〇キロメートルで南進し、本件交差点で東に左折するため、減速し、別紙図面<1>地点(以下、地点符号のみ示す。)で道路左端へ寄せて行き、方向指示器により左折の合図をし、<2>で左にハンドルを切って左折を開始し、時速約一〇キロメートルで走行していた<3>で原告車と<×>で衝突し、はじめて原告車の存在に気づいたこと、被告車は<4>で停止したこと、

原告は被告車を本件交差点の約三〇メートル手前で認め、併走する形となったが、交差点の手前約一二メートルの地点で被告車が左に寄って来て、原告の右肘及び右くるぶしに接触したこと、それまで、被告は左方向指示器の合図をしていないこと、本件事故当時対面信号は青色であったこと等の事実を認めることができる。

2  右の事実によれば、被告小牧は、交通整理の行われている本件交差点を左折しようとするに当たり、左側後方から進行してくる車両の有無及びその動静を注意すべきであるのに、これを怠り、本件事故を発生させた過失があるといわなければならないし、他方、原告車と被告車とが併走を開始した時点では、被告車と道路左端との間には、南行車線の幅員と被告車の車幅から考えて一メートル以上の間隔があったと解され、被告車の左折の合図も未だなかったのであるから、原告に過失があると解することはできない。

したがって、原告の損害につき過失相殺は行わない。

四  損害てん補

前記争いのない事実等によれば、原告は一四二七万七五九四円の支払いを受けたのであるから、前記二の原告の損害額合計三一七〇万八二四二円から右一四二七万七五九四円を控除すると残額は一七四三万〇六四八円となる。

五  弁護士費用 一七〇万〇〇〇〇円

本件事案の性質、認容額その他諸般の事情を考慮すると弁護士費用は一七〇万円とするのが相当である。

六  以上のとおりであって、原告の本訴請求は一九一三万〇六四八円及び内金一七四三万〇六四八円に対する平成六年八月二九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石原寿記)

別紙図面

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